第15話『雪原の殺意』 (2004年2月4日放送)
ある日、美和子と待ち合わせていた薫は、男から金をもらってホテルへ行こうとする女性を拘束した。その女性は北海道警が売春と売春斡旋で逮捕、公判を前に逃亡していた沙雪という女性だった。偶然とはいえ札幌地検へ沙雪を送り届けることになった薫。右京の許可をもらい、周囲から嫌味を言われつつも無事札幌へとやってくる。
札幌では美濃部と北川という2人の刑事に沙雪を預ける。しかし、その途端に美濃部が沙雪に激怒。北川によると、美濃部は沙雪が中学生の時から補導していたらしい。沙雪の母・みどりからホストクラブの加茂内という男にだまされ、売春を始めるようになったと聞き、薫はさっそく加茂内のもとへ。しかしいくら問い詰めても証拠がなければどうしようもない。
そして沙雪のそばにはいつも彼女の身を案じる大学の同級生・真二の姿があった。沙雪が学校を辞め、加茂内と付き合っていたことを気にかけているが、どうやら真二は沙雪に惹かれているらしい。その夜、薫は美濃部らと居酒屋へ行くが、勝手に捜査を進めていることをとがめられてしまう。それでも薫は順調に調査を進めていたようだが、突如行方不明になってしまった。美和子のもとには「調べたいことがあるからもう1日札幌に」という連絡があったきり。右京は薫を探しに札幌へ行くことになるが、そんなことが決まった矢先、薫から電話が入った。しかしろくに話もせずに電話は切れてしまう…。
札幌へやってきた右京は薫が止まったホテルへ向かう。薫が泊まっていた部屋からはピンクビラが発見され、通話記録を調べるとビラと同じ電話番号があった。右京は以前、東京で世話をした薫の知人・栄一を呼び出し、彼のタクシーで薫の足取りを追う。薫が加茂内を訪ねていたことはわかったが、加茂内の店の男によると別の五十過ぎぐらいの男も加茂内を訪ねてきていたとか。薫の失踪と関係があるのだろうか?泥酔していた薫が帽子とサングラスをした男とタクシーに乗車した事実をつかんだ右京は、栄一の車で薫らが降りたという広大な雪原へ向かう。そしてその雪原の中央で右京は頭から血を流して倒れている薫を発見する。
病院のベッドで気が付いた薫は、沙雪が加茂内に言われて売春していたことを証明しようとホテトル嬢を呼びつけて話を聞いていた、と右京に説明する。その中でホテトル嬢が暴力団らしい男に拉致されて拷問される、という騒動が続発している事実をつかむ。どうやら暴力団は加茂内を探していたらしい。そんな捜査を続けていた矢先、突然頭を殴られてタクシーに乗せられたのだとか。薫に調べられてはまずい人間の仕業に違いない。やはり加茂内を探していたという50過ぎの男の仕業なのだろうか…。
そんな薫らの捜査のおかげで沙雪は釈放されることになる。母・みどりは沙雪に小樽へ帰ろうと声をかけるが、なぜか沙雪は「帰らない」と頑なに拒否する。みどりに訳を聞くと、沙雪の父が10年前に小樽で人を殺し死刑になったと告白する。苦しいながらも工務店を経営していた沙雪の父・恒夫だったが、仕事を回してもらえなかったことを恨み、とある業者の社長を射殺したのだという。以来、みどりと沙雪は小樽にいられなくなった…。
右京と薫は沙雪の部屋を訪ねる。部屋にはコレッジョの画集が置いてあった。毎年美濃部刑事が誕生日になると送ってきてくれるのだという。用がないなら帰ってほしいと言う沙雪に右京と薫は加茂内の命が狙われていることを告げる。沙雪から加茂内が住んでいる場所を聞き出し、右京と薫は加茂内のマンションへと向かう。マンションの入り口で急いで出て行く何者かとぶつかるが、とりあえず加茂内の部屋へ向かうと、加茂内が死んでいた。部屋には金のボールペンが残されているだけ。マンションの入り口でぶつかってきた男が犯人なのだろうか?
霊安室で加茂内の死を確認した沙雪はさすがにショックを隠し切れない様子。そんな沙雪を見た同級生の真二は沙雪を元気付けようと大学の近くの教会へ行ってみないかと誘う。一方、右京と薫は加茂内の部屋に残されていた遺留品を調べに、道南署の倉庫へと向かう。遺留品のリストをチェックしていると、なぜかボールペンが遺留品の中に見当たらない。リストに記載されているのに遺留品の中にないということは、署内でなくなったということになる。となると、まさか署内の人間が犯人なのだろうか?
右京と薫は事情を聞こうと美濃部刑事のもとへ向かうが、なんと美濃部刑事は自宅で殺害されていた。部屋のテーブルには吸いかけのタバコと飲みかけのビール。しかし美濃部刑事はタバコもお酒もやらないはず。一体誰が?ふと薫は北川刑事がヘビースモーカーだったことを思い出す。そういえば美濃部刑事と北川刑事に沙雪を引き渡した際、北川刑事がボールペンを使ってサインをしていた…。右京が現場で見たボールペンは金色だったという。北川刑事が使っていたボールペンも金色だった…。
加茂内を殺害した犯人は北川刑事なのだろうか。北川刑事は裏で加茂内の売春組織とつながっていたが、関係が発覚するのを恐れて加茂内を殺害した。美濃部刑事は遺留品倉庫で見つけたボールペンから加茂内殺害の犯人が北川だということをつかみ、そして自首するよう自宅で説得しようとしたが殺害された…。確かにそう考えるとつじつまは合う。そうなると加茂内とつながりのある沙雪の身が危ない。
沙雪は真二と二人で大学の近くの教会へ行っているはず。右京と薫が急いで教会へ向かうと、まさに北川が銃で沙雪を狙っているところだった。しかし発射した弾丸は沙雪ではなく、近くにいた男に当たってしまう。薫はもう一度沙雪を狙おうとしている北川刑事を何とか取り押さえる。観念した北川は犯行を自供する。やはり北川は加茂内とつながっていた。そして加茂内との繋がりが露呈するのを恐れた北川は薫を襲い、犯人を加茂内に見せかけた上で加茂内を殺した。しかしたった今、銃で誤射した男に殺害現場を出るところを見られてしまったため、ボールペンを落としてきたことを見落としてしまう。そしてそのボールペンが現場から発見されたことで美濃部刑事に犯行がばれてしまい…。
加茂内は以前、東京で懲役を受けており、そのとき独房で沙雪の父親を見かけ、沙雪の存在も知っていたらしい。そんな沙雪がたまたま加茂内のいるホストクラブに入り浸るようになるというのは、まさに運命の悪戯だったのだろうか。そんな事実を知り傷心の沙雪だったが、傍らで必死に真二がなぐさめていた…。
一方、右京と薫は北川に撃たれた男が入院している病院へ向かう。ベッドにあるプレートからその男は「工藤伊佐夫」という名前であることを知る。この工藤という男は一体何者なのだろうか?なぜあの時、教会にいたのか?目を覚ました工藤から事情を聞こうとすると、工藤はか弱い声で「私は人を殺しました」と言う。
第16話『白い罠』 (2004年2月11日放送)
加茂内に情報を流していたのは北川刑事だった。その北川は加茂内を殺し、真相を知ってしまった美濃部も殺害。さらに沙雪に接近したところを、右京と薫が無事逮捕にこぎつけた。そのとき沙雪を守るように例の50過ぎの男が姿を現した。北川が放った銃弾で傷ついた男は工藤といい、「私は人を殺しました」という言葉を残し病院から姿を消してしまう。
工藤とは一体何者なのか。右京らは病室に残された「みどり」というマッチを手がかりに、その店を訪ねる。するとその店は小樽にある沙雪の母・みどりが営む小料理屋だったことがわかる。案の定、工藤はよく店に来ていた。そして常連となった工藤にみどりが沙雪のことを相談したらしい。それで工藤は沙雪の後を追うような行動をとったのだろうか…。
沙雪は真二の説得に応え、再び大学へ行くことになる。そんな様子を見届け安心した右京らは工藤の行方を追う。が、右京は真二の無償のやさしさに引っ掛かるものを感じ、札幌で真二の周辺を調べ出す。大学の学生課で調べると、真二が東京の名門大学から編入していたことがわかった。さらに美和子の調べで、沙雪の父が殺した被害者には息子がいたことも判明する。その名前は津村真二。父親を殺された後は母親の姓を名乗っているらしいが、その男はまさしく沙雪に近づいた真二に間違いない。ということは、復讐のために真二は沙雪に接近した!?
あわてて大学構内で真二と沙雪の行方を探す右京と薫だったが、そんな2人は何者かに殴られ倒れている工藤を発見する。どうやら真二に襲われたようだった。真二が沙雪に対して復讐をしようとしていることは間違いない。さらに工藤に正体を見破られ、かなりあせっているはずだ。追い詰められた真二はいったいどこで沙雪への復讐を果たそうとするだろうか…。右京はこれまでの経緯を思い返し、加茂内が死んで落ち込んでいる沙雪を真二が誘った教会に行き着く。そこは父親と兄が殺されたとき、真二が母親とともにいた教会。栄一のタクシーに乗り込み、右京と薫は急いで教会へと向かう。
二人が教会へ到着すると、まさに真二が銃で沙雪を狙っているところだった。止めさせようとする右京と薫に対して真二は、父も兄もまさか親しくしていた男に殺されるとは思っていなかったはず。だから自分も沙雪に自分を信じさせてから沙雪の命を奪いたかった、と言う。そんなやりとりを聞いた沙雪は、自分を撃っていい、などと言い出す。自分なんて生きる価値がないから、と。その言葉を聞いた真二は一瞬躊躇し、その瞬間薫が真二に飛びつき、間一髪で難を逃れる…。
私にはあながた一番苦しんでいるように見える。取り押さえられた真二に向かって右京はそう言った。沙雪も真二と同じようにあの事件で辛い思いをした人の一人。同じ苦しみを味わうなら、真二には“許す”という選択肢もあった。最後の最後で真二は沙雪を許したのだった…。たとえどんなに辛く、やりきれなくても、人はそうやって生き直さなければならない。倒れこんでいる真二に向かって、右京は最後にそう言った。
ようやく事件が収まり、右京と薫はあらためて工藤と会う。そして話を聞くと、なんと工藤は死刑囚だった沙雪の父親の担当看守で、さらに死刑を執行した刑務官だったという。さらに刑務官になる前は小樽で町工場を営んでいたとも。しかし不況の煽りで元請けから発注を切られ、倒産してしまったらしい。自暴自棄になり、自殺や元請けを殺害することも考えたが、親身になってくれる恩人がいて、なんとか刑務官の仕事に就くことができたという。そしてそれから二十数年後に沙雪の父と出会い、その経歴を読み、自分と同じ境遇だったということを知る。もしかしたら自分も沙雪の父と同じ運命を辿っていたかもしれない…。そんな思いから沙雪の父に感情移入してしまい、いろいろ話すうちに娘・沙雪の話も聞くようになる。しかしどんなに感情移入しようとも刑は執行しなければならない。そして最後の瞬間、沙雪の父に一言もかけてやれなかったことを今でも後悔しているという。
沙雪はそんな話を傍らで聞いていた。それに気付いた工藤はコレッジョの画集を沙雪に渡そうとする。沙雪の誕生日にコレッジョの画集を送っていたのは美濃部刑事ではなく工藤だったのだ。拘置所で沙雪の父と親しくなった工藤は沙雪がコレッジョの画集を欲しがっていることを聞き、沙雪に画集を送っていたのだという。そして最後の一冊となった今年、沙雪に会い全てを話そうとした。しかしみどりの店に通い、親しくなるうちに言い出せなくなってしまった…。そんな話を終え、工藤が沙雪にコレッジョの画集を渡そうとすると、沙雪はその手を払い、受け取ろうとしない。そして私なんて生きる価値がない、そんなことを言いながら走り去ってしまう。そしてみどりからももう二度と来ないで欲しいと告げられ、工藤は失意のうちに帰路についた。
来なければよかった、そんな後悔を胸に工藤は右京や薫とともに列車に乗り込む。工藤は三十年も死刑囚と手にかけてきた。そうすることで少しでも被害者の憎しみを晴らし、加害者の家族の苦痛を癒せると工藤は信じてきた。しかしそうではなかったのだろか?今までの自分の人生が否定されたような気持ちになる工藤。そんなとき列車がとある駅へ到着すると、ホームにコレッジョの画集を持った沙雪が立っていた。沙雪は列車を追いかけ画集を掲げていた。そんな姿を見た工藤は思わず号泣する。工藤の人生は否定されたわけではなかった。
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