そのころ、平介は街中で偶然、藻奈美と直子を巻き込んだバス事故を引き起こした運転手・梶川幸広(吹越満)の妻・征子(堀内敬子)を見かけていた。平介に気づき、その場を立ち去ろうとする征子。ところが、憔悴しきっていた征子は転び、足を挫いてしまう。複雑な思いを抱えながらも、平介は放っておけず、征子の自宅まで送り届けることに…。
「お茶だけでも」と言われて仕方なく征子の自宅に上がりこんだ平介は、梶川がここ数年深夜トラックのアルバイトまでし、休む間もなく働いていたにも関わらず、家には最低限の生活費しか入れていなかったことを聞かされる。さらに、梶川家にしつこく嫌がらせの電話がかかってきていることも知り、さまざまな感情に包まれる平介。驚きと怒り、加害者家族に対して図らずも芽生えそうな同情心、征子の言動に対する疑念…。それらは自分でも上手く説明のつかない、ザラリとした嫌な感じを心に残す。
バス事故の原因が梶川の過労にあることは明らかだった。なぜ梶川はそれほどまでに金に困っていたのか…。平介は事故の根底にある原因をきちんと知りたいという気持ちを強くする。一方、平介から話を聞いた直子の反応はストレートだった。「バカバカしい死」――直子は激しい怒りをあらわにし、平介に征子と二度と関わらないよう詰め寄る。ところが平介は首を縦に振らず、2人の間にわずかな溝が生じる。
数日後、平介は直子に残業だと嘘をつき、征子と会うことにした。彼女から梶川の件を聞いて以来、ずっと気にかかっていたのだ。なぜ梶川に稼いだ金をそのまま家に入れない理由を問い質さなかったのか、と征子に訊ねる平介。すると、征子は意外な言葉を発した。
「私、梶川のこと……何も知らないんですよ」
征子はその昔あることで梶川に救ってもらった恩があり、そのために彼が話さないことは聞けなかったのかもしれないという。たとえ夫婦でも触れられたくないことだってあるんじゃないですか――征子の言葉に平介は思わず熱くなった。そのことでバスに乗っていた乗客の多くが死んだのだ…。すると、征子は言った。
「私が死んでお詫びができるなら、そうしたいくらいなんです。でもね…私、生きなきゃいけないから。生きて娘を育てなきゃいけないから」
僕は何のために梶川征子に会いに行ったのだろう――平介は何となく妙な気分に包まれながら、直子の待つ自宅へと向かった。
直子は春樹に呼び出され、自宅の前にいた。春樹は“藻奈美”に別れを告げられたことがどうしても納得いかなかったのだ。そこへ平介が帰ってきた。春樹と会っている直子を見て頭にきた平介は、春樹を追い返す。さらに、直子から春樹が藻奈美の彼氏で、初登校の日にいきなりキスされたことを聞いて、激しく動揺する平介。娘を心配する気持ち、妻がほかの男にキスされたことに対する焦り…。平介はつい声を荒げるが、直子はどんなことがあっても春樹とは付き合わないと断言する。
その夜、眠っていた平介は直子の声で目を覚ました。平介の頬をやさしく撫でる直子。しかし直子に抱きつかれた瞬間、平介は思わず彼女を突き飛ばしてしまう。長く重苦しい沈黙…。その後、涙で瞳を濡らした直子が切り出した。
「私たち、別々で寝ようか」
平介は直子の手をそっと握った。
「そんなこと言うなよ。もううちには俺たち2人しかいないんだ」
平介と直子は手をつないだまま、そっと眠りについた…。
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