プレゼンは明日、との石川発言に驚く部員一同。別の代理店のプレゼンに満足できなかった御園ビールが、土壇場で代理店を変更したのだ。請け負うのは新商品である第三のビール。品質の事は言わずに美味いビール感をアピールしなければならない、非常に難しい仕事だった。
早速、石川らは前向きに対策を練り始める。君島部では木下部が御園ビールの担当になった事を面白がり、その話題で盛り上がっていた。石川が朝までに3方向プレゼンを仕上げたいと伝えると、部員から無茶だという声が上がる。だが、この無理な仕事を引き受けてしまったのは木下部長だった。皆が木下部長への不平を言っている最中に、木下部長が呑気に大遅刻出勤してきた。石川や後藤は仕事を引き受けた事に対して抗議するが、木下部長は「頼むなぁ、じゃあ帰るなぁ」といつものように帰ってしまう。僕元はあまりの無責任ぶりに「すげえな」と感心してしまう。
その夜…ポットを抱えて寝ているお清、コピーを書いたまま倒れている僕元、もうろうとしながらホッチキスをとめて資料を作る石川と後藤…。部員たちはそのまま作業をして朝を迎える。そして御園ビールでのプレゼンも終わって一息つく木下部の面々。木下部長はプレゼンにも姿を現さなかった。
夕方、木下部長がやってきて御園ビールから連絡があった事を皆に報告。「なんか、ぴんとこないって言われた」と木下部長。明日までにやり直せるかと御園ビールに訊かれ、引き受けてしまったという。部員たちはたまらず泣き言を言い出す。神奈川がどうして無理だと突っぱねてくれなかったのかと非難すると、木下部長は「わからへんけど、明日までって言うてはるからそうなんかなと思て」と言う。僕元も「それが部長の仕事なんですか?」と猛抗議するが、何を言っても無駄だと気づいた部員たちは気持ちを切り替えて作業を開始。皆が必死に作業を行う中、木下部長はまたまた飄々と帰っていく。
その夜、君島部長をはじめとする君島部の面々は高級クラブで優雅に過ごしていた。ここはいろんな会社の人が訪れ、社交の場となっているクラブ。君島部長は店内で派手に遊んでいる御園ビールの社員たちに気づく。それは僕元たちが難題を吹っかけられている担当者だった。君島部の部員たちが理不尽な要求ばかりする極悪非道な御園ビールの話をしていると、君島部長が面白い事を思いついたと言って携帯電話をかけ始めた。
しばらくすると木下部長が高級クラブにやってくる。君島部長が木下部長を呼び出したのだ。君島部長は御園ビールの社員たちに挨拶に行き、木下部長を紹介する。いつの間にか、木下部長の頭にはパーティ用のウサギの耳が付けられていた。もちろん初対面だった。君島部長は名刺を取ってくると言って木下部長を残し、自分の席に戻ってしまう。気まずい空気になる木下部長と御園ビールの社員と店の女の子たち。とりあえず、木下部長は真っ直ぐ前を向いて沈黙したまま。君島部の部員たちは、君島部長が木下部長を置き去りにした事を面白がる。君島部長は、木下部長と御園ビールがどんな化学反応を起こすかを楽しもうという魂胆だった。一部始終を明日報告してくれと日泉に頼み、店を出て行く君島部長たち。
長い沈黙の後、木下部長は唐突に口を開いた。
「肝試し大会、やりませんか?」
真夜中の丸々通信ツアーという木下部長の提案に御園ビールの社員たちは顔を見合わせてしまうが、店の女の子たちが大はしゃぎするノリに押され、みんなで丸々通信へと向かうことに。木下部長は「♪汽車汽車しゅっぽしゅっぽ」と楽しげに歌いながら、電車ごっこのようにヒモで囲われた御園ビールの社員と女の子たちを先導する。
一行が真っ暗な丸々通信の社内をどんどん進むと、不意に長髪の人影が、足音もなく横切る。怖がる女の子たちにしがみつかれ、いい気分の御園ビール社員。一方では「いちま〜い、にま〜い」と数える声が。「お菊さんだ」と叫ぶ女の子に、「お清です」と答える声。一行を見つめる声の主は、まさに化けて出た感満載のお清だった。さらに怖がる一行を引き連れて電車は走り出す。
暗闇の中に浮かぶ明るい部屋までくると、夜を徹して働く木下部の面々を目撃する。かわいそうだと仕切りに女の子たちが騒ぎ立てる中、木下部長は「御園ビールさんに、明日までにここ修正しろってたくさん言いつけられたみたい」と御園ビール社員の前で発言。もちろん彼らが御園ビールの社員であることなど、覚えているはずもない。
ヒトダマらしきものを発見した一行は屋外スペースへと続く扉を開けた。そこにはお菊さんが立っていた。「お清です」と再度自己紹介する横には、寒い中キャッチコピーを書き続ける哲と僕元がいた。寒いところのほうが眠くならないからこの場所で作業をしていると、辛そうな表情で哲が言う。すると僕元が電車ごっこしている御園ビールの担当者に気づく。挨拶する僕元。状況を理解していない木下部長。お清が御園ビール担当者を手で示して「こちらの方々の作業を、今、私たちが…」と説明する。うっすら理解した木下部長は「じゃあ、こんな感じでやってますんで。明日、よろしくお願いいたします」と御園ビールの社員に向き直った。離れてみていた日泉は、そのファンタジスタぶりに腰を抜かしていた。
翌日君島部には、大声で笑っている君島部長がいた。日泉の“木下部長真夜中の丸々通信ツアー”レポートを読んで、ご満悦だった。木下部の御園ビールプレゼンは…なんと修正なしのOKを勝ち取っっていた。横暴なクライアント相手に3日でプレゼンをクリアしたのは快挙だった。
この一件は後に、木下の「電車でゴー」と呼ばれ、舞台裏を渦中の人に見せるという裏技をいうようになる。
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