生死の境をさまよう過酷な強制労働を11年もの長きに渡って耐え抜いた壹岐は、昭和31年に帰国する。それからの2年間、壹岐は、強制労働によってむしばまれた体の回復と、シベリアから一緒に帰国した部下たちの就職の世話に専念した。その間は、妻の佳子(和久井映見)が大阪府庁民生課で働きながら家計を支えていた。
そんなある日、壹岐のもとに、士官学校時代からの親友で、防衛庁の空将補である川又伊佐雄(柳葉敏郎)がやってくる。川又は、この国を守るために一緒に働いてほしい、と壹岐を防衛庁に誘った。しかし壹岐は、自らが関わった作戦により、多くの兵士や民間人を死なせてしまった責任から、もう国防に関わる資格はない、と答えて川又の誘いを断った。
壹岐は、部下たちの就職が片付いたのを機に、かねてから誘われていた近畿商事への就職を決意する。近畿商事は繊維を中心に扱う商社だが、経済の発展を見越して、重工業化・国際化を推進しようとしていた。社長の大門一三(原田芳雄)に会った壹岐は、軍人時代のコネや肩書きを一切利用しないことを条件に、近畿商事に入社し、社長室嘱託として繊維部で働き始める。それを知った壹岐の長女・直子(多部未華子)は大喜びだった。母・佳子の苦労する姿をずっと見続けてきた直子は、二度と戦争には関わらないでほしいと願い、壹岐が防衛庁で働くことにも強く反対していたのだ。
そんな折、壹岐のもとに、秋津千里(小雪)という女性から手紙が届く。千里は、大陸鉄道司令官だった秋津紀武(中村敦夫)の娘だった。壹岐と秋津は、シベリア抑留中に、ソ連側の証人として東京裁判に出廷させられようとしていた。ソ連側は、壹岐や秋津に、天皇に戦争責任があったと証言させようとしたのだ。だが秋津は、それを断固拒否し、裁判の前夜、自ら命を断っていた。
壹岐は、父の話が聞きたいという千里の願いを受け、彼女が住む京都を訪れる。千里は、父が大事にしていた青磁の香炉にみせられ、陶芸の道に進んだのだという。その際、壹岐は、千里の兄・清輝(佐々木蔵之介)が、ルソン島で多くの部下を死なせてしまった責任に苦しみ、仏門に入って厳しい修行を続けていると知って衝撃を受ける。
そのころ、国内の有力商社各社は、防衛庁の第2次防FX=次期主力戦闘機の受注をめぐって水面下で激しい戦いを繰り広げていた。航空機部を置く近畿商事東京支社の支社長・里井達也(岸部一徳)は、劣勢を跳ね返す最後の切り札として、川又ら防衛庁の空幕中枢部と強いパイプを持つ壹岐が必要だと大門に進言する。
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