そんな3人が次に手にした6冊目の本は、無頼派の旗手・坂口安吾の『白痴』だった。作品の舞台は、太平洋戦争末期の東京の一軒家。主人公の伊沢(松尾敏伸)は、空襲でいつ死ぬかもしれない状況下、隣家に住む白痴の女を自分の家に囲うことになるのだ。本を手にした節子は、たちまちその中にのめり込んでいった。
空襲の危機が迫る中、帰宅した独身会社員の伊沢は、押入れに隣家の若い白痴の女・オサヨ(高橋真唯=二役)が潜んでいることに気付く。隣家の住人がすでに避難したと知った伊沢は、オサヨへの肉欲に耐えながら、世話を始める。やがて、白痴のような幼く素直な心が自分に必要だと考えた伊沢は、オサヨの肉体にのめり込む。そして、空襲の音が近づく中、2人は、愛欲に溺れて行くのだ。
本を読み終えた晶子らの話は、白痴のように真っ白で、何色にでも染まるこの女が誰か、ということになった。この“白痴”の女は、自分たちの個性的な母親たちとは全く掛け離れている。3人は、ひょっとすると、自分たちの母親以上に、草太郎に強い影響を与えた女がいたかもしれない、と考えて・・・。
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