置き忘れたのか!?」
またしても我が河原町署の管轄内で殺人事件が起こってしまいました。今回の被害者は不動産会社社長の赤沢洋平(峰蘭太郎)という男性。自宅で脇腹を刺されて亡くなっていたのです。約200万円が入った鞄が無くなっていたこと、現場の床に来客用のスリッパが転がっていたことから、署長(萬田久子)の鶴の一声で、物盗りと怨恨の両面から捜査が開始されることになりました。
もちろん、副署長(船越英一郎)が首を突っ込むような案件では断じてありません。副署長はといえば、事件の2日後にタクシーに置き忘れられた骨箱の落とし主を捜す仕事を任されることになりました。
しかし! やたらと殺人事件の方へ関心を寄せていた副署長の超人的な力でも働いてしまったのか?くわばら、くわばら…。なんとまぁ、骨箱を車中に忘れたのは人気漫画家の赤沢真美子(有森也実)ということが判明。彼女は被害者と折り合いの悪かった姪で、今回の殺しの容疑もかかっている人物であります。
しかも骨箱の中身は、赤沢洋平の遺骨だった! 何でもタクシー運転手の木村夏彦(藤岡太郎)によれば、火葬場からタクシーに乗った赤沢真美子は目的地へ向かう途中、突然何かに吃驚したようで、慌てて骨箱を置いて降りてしまったとか。事件が発生した当初から私は密かに懸念しておったのですが、イヤな予感は的中するものです…。案の定、副署長は赤沢真美子がなぜ叔父の遺骨を置き忘れたか――その理由と殺人事件との関連性を疑い始められたのです。
そのころ署長たちは、自宅でアシスタントたちと仕事をしていた赤沢真美子が、赤沢洋平の死亡推定時刻あたりに30分ほど、裏口に続く奥の部屋へ消えたことを突き止めていました。赤沢真美子の家と事件現場は車で約10分の距離。つまり犯行は可能なのです!
さらに事件当夜、赤沢真美子の車が事件現場付近に駐車していたという目撃証言も飛び出した。しかし、署長たちがそのことを副署長に報告する義務などもちろんありません。副署長はやきもきしながらも、必死に我慢しておられました。
しかし困ったことに、あの副署長が我慢を押し通せるはずもありません。副署長は所用で赤沢真美子のもとを訪れては、こっそり聞き込みをしておられました。そして、赤沢洋平が無断で彼女の漫画のキャラクターを事業宣伝に使おうとしていたこと、不動産業に従事する裏であくどい高利貸しをしていたことが原因で、不仲だったことをお知りになった。
副署長は彼女が骨箱をタクシーに置き忘れた上に、すぐに届出を提出しなかった理由についても尋ねられたようですが、核心を突く答えは得られなかったようです…。
やがて、事件現場から車で30分のところにある公園で、赤沢洋平の鞄が見つかりました。30分しか席を外していない赤沢真美子には、そこまで鞄を捨てに行くだけの時間的余裕はありません。赤沢真美子はシロなのか!?
しかし、副署長はまたしても引っかかってしまわれた! 事件当夜、被害者の携帯電話は事件現場の庭に捨ててありました。なぜ鞄と携帯を別々の場所に捨てたのか…。副署長は書類に判子を押しながらも、心ここにあらず…。頭の中ですべての情報を整理し、遂に事件のからくりを見抜いてしまわれたのです!
私が折を見ては釘を刺したというのに、副署長はとうとう我慢できなかったようです。
「俺の我慢もここまでだっ!」
気が付けば、副署長は制服と山積みの決裁書類を置き去りにしたまま、外出されていました。ふ、副署長…あれほど外出は所用に限るよう申し上げたというのに!!
副署長は赤沢真美子のもとを訪れ、事件のあらましを説明しておられました。赤沢洋平の殺害現場には2人の人間がいた、というのが副署長の見解でした。あの夜、被害者宅を訪れた赤沢真美子は、刺されて呻く被害者と逃げ去る男の姿を目撃。
しかし彼女は救急車を呼ぼうとする叔父の携帯電話を庭に投げ捨て、苦しむ叔父を見捨てて去ったのです。
ところが後日、彼女は火葬場からの帰り道、タクシー運転手・木村の顔を見て愕然とした。彼こそ金目当てで赤沢洋平を殺した犯人だったからです。慌ててタクシーを降りた彼女は、骨箱を置き忘れました。しかも事情を聞かれるのを恐れ、警察にも届け出なかったのです。
赤沢真美子には自殺した父がいたそうです。事業に失敗した彼は弟である赤沢洋平に援助を頼むも断られ、追い詰められた挙句に命を絶ったとか。それが原因で、彼女は漫画で正義感溢れる物語を紡ぎ出すようになり、その世界をファンの子どもたちと共有することが生き甲斐になりました。
ところが先日、彼女のファンである子どもの父親が赤沢洋平からした借金の返済に苦しみ自殺。赤沢真美子は残された母子の借金の肩代わりを申し出るため、事件当夜に赤沢洋平を訪ねたのだといいます。叔父を見殺しにしたのは正義だ――そう主張する赤沢真美子。
しかし、副署長は彼女が偽物の正義に対して密かに抱いている後ろめたさを見抜いておられました…。結局、赤沢真美子は河原町署に出頭。犯人の目撃証言をすると同時に、彼女自身も社会的制裁を受けることで、真の正義を貫いたのでした。
こうして副署長は長い“トイレ”からお戻りになられました。それにしても、いつになったら“トイレ”を我慢できるようになるのやら…。副署長の未決裁書類同様、私の気苦労も未だ山積みでございます…。
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